それは叶わなかった。
手首を引き寄せられて、腕の中に戻る。
首にその唇が這う。展開の速さに置いてけぼりをくらっている。
「あ、あさぎさん?」
「あ?」
「わたし、お風呂に、はいってこようと思うんです、寒いし」
実際そんなに寒いわけではなかったけれど、口実にするには丁度良い。
浅黄さんは少し考えるようなふりを……これがふりと分かるくらいには一緒に居るんだなと気づいた。そう、ふりをして、腕の力を緩めることは無かった。
「温めてやるよ」
どこのイケメンが吐く台詞だ、と思っていたそれを躊躇いなく言って、押し倒してくる。



