ファンがCDを何枚買ってでも握手をしたい気持ちがよく分かる。

「これから先、手洗いません……」

そう決める気持ちも。

「今すぐ洗ってこい」

聞き慣れた声に顔を上げる。ネクタイを緩めた浅黄さんが呆れた顔をして立っていた。

先程までの笑顔はどこへやら。

「お前はどうしてそういうことを平気で言うかな」

富山さんが肩を竦める。二人で来るくらいなのだから、知り合い以上だとは思ったけれど。

「嫁だって知りながら近付く人間に言われたくない」
「ああ、この子がお前の?」

富山さんの視線がこちらに向いた。