生簀の恋は青い空を知っているか。


不自然なことなく重ねられた唇に、浅黄さんにあるのは色気、わたしにあったのは驚愕だった。

「ど、どうしました?」
「何となく」
「なんとなく?」
「してみたかった」

は? とわたしの顔はそう言っていたと思う。
声に出さなかっただけで。

何となくで他人にキスをしてきたのなら、この人は猥褻罪で捕まるべきだ。

とか何とか思ったけれども、この歳でキスひとつで騒ぐなんてと思われたくなくて、言葉を全部呑み込んだ。

「そうですか」

浅黄さんにとっては挨拶程度のことなのかもしれない。そう考えることにして、わたしは背中を向ける。