───「さすが優翔様です。拓哉様の血を受け継いでいるだけあります」



信号が赤に変わり、ブレーキがかかった車がゆっくりと止まる。

歳のいった運転手が口を開き、低くも柔らかな声が車内に響いた。


「何のことですか?」

後部座席に座る男が微笑み、腕の中でスヤスヤと眠るひとりの女の頭を優しく撫でている。


「あれは軽い洗脳ではありませんか?
優翔様は意地の悪いお人です」

「ひどい言いようですね」
「……否定はなさらないのですか」


運転手が小さな笑みを漏らす。
一方、男も動じる様子はなく同じように笑い返した。


「こうでもしないと鈴華は意地を張り続けるので、たまには必要かと。

ああ、どうして鈴華はこんなにもかわいいんだろう。本当に愛しい」


眠る女の顎をそっと持ち上げ、迷わず血色の良い唇に自分の唇を重ね合わせた。

女が起きていると決してできない行為。
つまり女が寝ている間はやりたい放題である。


「早く本音を言ってくれないかな。俺を好きだって素直に言えない鈴華もかわいいけど」


もう一度女にキスを落とした男は満足そうに笑う。

運転手はミラー越しにその様子を眺め、呆れたようにため息を吐いていた───