【短】センパイ、センパイ、センパイ。




自動販売機で飲み物を買ってる、男子が二人。


片方は、友達のお兄さんの拓麻【タクマ】さん。



もう一人は――



「俺の大事なベースが壊れたらどうしてくれるんだ!」


「雨を責めてもどうにもなんねぇだろ」


「ことはだって嫌だろ!?」



――ことは、センパイ。



ミルクティー色をした、アシンメトリーの髪型。

左側につけてる二本のヘアピンは、交差されていて可愛らしい。


まさか朝一に会えるなんて!!



「そりゃ嫌だよ。だからギターをしっかり守って朝早く登校したんだろ?」


「めっちゃくちゃ神経すり減らして注意した。頑張った俺」



あの二人と、ここにはいない二人を加えた四人で、軽音部を発足してバンドを組んでいる。


バンド名は「セブンチャイルド」。

ファンの間では「ナナコ」って愛称で呼ばれている。セブンチャイルド……つまり7人の子どもだから、ナナコ。


メンバーは四人だけなのにどうしてその名前なのかはわからないけど、素敵な名前だ。



ことはセンパイがギターボーカルで、拓麻さんがベース担当。



セブンチャイルドのメンバーはかっこいい人が多くて、何より曲のクオリティーが高いから、校内校外にたくさんのファンがいるとかいないとか。


朝と放課後によく部室で練習しているらしい。



以前、音漏れを期待して部室の前を通ったことがあるけど、すごかった。


音楽に詳しくないし、語彙力もないけど、とにかく圧倒された。


それに、とても楽しそうで。

弾む音色に、また、恋をした。



「……ん?」


「っ!」



熱烈すぎる視線に勘づいたのか、ことはセンパイがこちらを向いた。


咄嗟に角に隠れる。


「どうかしたか?」

「……いや、なんでもない」



……またやっちゃった。



ごく稀にことはセンパイを見かけても、いつもこう物陰に潜んでしまう。


目が合うチャンスを自ら手放してる。