「好きです、ことはセンパイ」


「っ、」


「ことはセンパイの歌声も、普段の声も、真剣な顔も、ふとした時の優しい表情も……どんなところも大好きです」



笑え。
こんな時こそ、笑いたい。


ふにゃりとぎこちなくほころばせた唇は、歪んだ弧を描く。


ひくひく引きつって、あまり長く保てない。



笑える余裕なんか、最初っから無い。


知ってて、笑ったの。
笑いたかったの。

大好きなキミの前だから。




「……俺も、憶えてるよ」


「え?」



ことはセンパイもまた、貧弱な笑みを漏らしていた。


私の笑顔が伝染しちゃったのかな。



「去年の文化祭、あいにくの雨だったけど、どうしても今までの練習を、メンバーの思いを無駄にしたくなくて、無理やりライブを続けてた」



そっと伏せた瞼の裏にはきっと、あの日のシーンが再生されているのだろう。


懐かしそうに回想している姿に、表情筋が和らいでいく。