この手紙に込めた、想いたちを。

ずっと、聞いてほしかった。



じわ、と耳の裏に侵食していく微熱の感覚を覚えながら、目の前を真っ直ぐ見据える。


ことはセンパイは一瞬見張った瞳をやわく細めた。



「うん。聞かせて、キミの気持ち。聞きたい」



どこか申し訳なさそうに、けれどとても嬉しそうに、微笑まれる。


泣きすぎた眼をごしごし拭って、封筒から便箋を抜き取った。


指の震えが、手紙にも及ぶ。

きっと、声音も震えるんだろうな。



「ことはセンパイへ」



あぁ、ほら。

やっぱり。


震えすぎて、何を話してるのかわかんないかもしれないな。



それは嫌だから、


「たぶんことはセンパイは私のことを知らないと思いますが、私は去年の文化祭以来ずっとことはセンパイのことばかり考えていました」


頑張って、ちょっと強めに読んでいく。


だけど逆効果で、余計に震えが目立ってしまった。



強弱も、音程も、読み方もへんてこりん。


それでもことはセンパイは優しい笑顔のまま、真摯に聞いてくれていて。

心臓も、甲高く泣き出した。



「セブンチャイルドの……ナナコのライブに感動し、奮い立ったことを昨日のように憶えています。ですが、それ以上に、ことはセンパイの歌声にとても……とても、惹かれました」



灰色がかった雨粒を全て払い飛ばす、突然の叫び。


炭酸ジュースの泡みたいに、はじけては消えて、また表面に浮かんでくる。


そんな、かすかで確かな、甘酸っぱい歌。



「あの時聴いた『なりそこないロマンチカ』は、今では一番好きな曲です。あのライブでことはセンパイと出会えたから、ナナコのことも知れて……」



そして、何より。


「恋にも、落ちました」


決してずっと幸せでも、甘いわけでもなかったけれど、焦がれてしまったあの一瞬は、私の宝物。

今までも、これからも。


ことはセンパイに恋をしたから、私は、告白できるくらいには成長できた。



変われたんだ、私。