恐る恐る、腫れた目を上げていく。
捉えたのは。
ことはセンパイの、悲しく歪んだ顔。
どうしてことはセンパイが、そんな顔をするんですか。
ずるい、ですよ……。
「本当は受け取って、返事を出したいんだけど……できないんだ」
それは今朝も聞いた話。
遅くなっちゃうんでしょ?
不安にさせるのが嫌なんでしょ?
でも、私は……待っていたかった。
「……どうしても、ですか?」
未練がましいな、私。
だけど無意識に聞いていた。
それほどまでに好きなんだ。
本当は思い出なんかにしたくない。
「……ごめん」
三度目の言葉。
冷たくのしかかって、雨に打たれてる感覚に陥る。
「俺には、読めない」
答えなんかわかってたのに。
やっぱり、傷つくな……。
差し出した手を、手紙を、脱力したように下ろしていく。
封筒にくしゃり、とシワがよった。
「キミの手紙なら特に読みたかったんだけど、俺、“文字”が苦手だから」
「え……?」
俯きかけた顔を、持ち上げる。
ことはセンパイはお世辞にも綺麗とは言えない、不格好な笑顔を貼り付けていた。
「俺さ、読めないんだよ、文字が。……いや、正確に言うと、読むのに人よりすごく時間がかかるんだ」
読めない、って。
気持ち的な意味じゃなくて……?
「失読症、って聞いたことある?」
ゆっくりと頭を振れば、「知らないか、そーだよな」と苦笑される。
「学習障害の一種なんだ。文字の読み書きが難しくて、すぐに理解できない。授業では先生や拓麻たちが助けてくれたり、音声にして流して覚えたりしてるけど、俺個人への物……例えばそういう手紙とかはさすがに人には見せられないし」
……そう、か。
さっきの『ごめん』は、私を振っていたんじゃなくて、謝ってくれてたんだ。
せっかく書いてくれてたのにごめん。
受け取れなくてごめん。読めなくてごめん、って。
その真意に、気づけなかった。
自分のことで手一杯で。
ことはセンパイがこんなにも辛く、悩んでいたことになんか、一ミリだってすくってあげられなかった。
私の、バカ。



