ハッとして、涙目のまま顔を上げる。



「どうして泣いてるの?」



いつの間にか目の前には、ことはセンパイがいた。


ぼやけた視界でも、ちゃんとわかる。
すぐにわかる。


私のひどい顔を、心配そうな顔で見つめてる。



好きな人が、いる。



こっちこそ、どうして、だ。


どうしてここにいるの?目の前にいるの?

部室にいたはずでしょ?


泣き声が聞こえて、わざわざ扉を開けたの?



「泣かないで」



どうして。
そんな優しいんですか。



「っ、ふ……」



余計に涙があふれた。


好き。
好きです。

ことはセンパイ。


たった数文字の想いを贈りたいけれど、声も足も心も震えて。

恥ずかしくて、苦しくて。


どうしようもなく、どこかへいなくなってしまいたい。




「……しゃれた、」


ポツリ。

雨音に混じって、うっすらと降る。


甘く切ない、透明な響き。



「洒落たロマンチカになれないけど、下手くそでも赤くなろうぜ」



それは、私の一番お気に入りの歌の、一番お気に入りのフレーズ。


――なりそこないロマンチカ。