【短】センパイ、センパイ、センパイ。





――ドゥン。

重い、音。



耳の奥に入り込み、ぐちゃぐちゃだった脳内を一瞬にしてまっさらにする。



私にのしかかる重さと、全然違う。


この音の重さは、なぜかとても心地いい。


胸の深いところまで揺さぶる感じ。



たった一音、弦を一本弾いただけの音なのに、どうしてなんだろう。


忘れられないほど、侵食していく。



この音……。

きっと、いや、絶対。


ことはセンパイの音だ。


大好きな、音だ。



たちまち世界がぼやける。


窓の向こう側が冷たい雫に包まれてるみたいに、両の眼に涙の膜が分厚く張った。


ダメ。
ダメだって!

涙、引っ込んでよ!


「好き」を、もう、積もらせたくないよ……。



だって、苦しむだけでしょ?


この想いは一生伝わらないのに、伝えられないかもなのに……やだよ。



ことはセンパイの顔を見なくたって、音を聴いただけでこんなにも……。



「……うぅ、ぐ、っ……」



止まれ。

涙も、初恋も。

溶けてしまえ。


ラブレターを受け取ってもらえないなら、せめて、私の中の思い出として終わらせてしまいたい。


これは、逃げだろうか。

それとも、後悔だろうか。



――ジャララン。



急に音が鮮明に、明るくなった。


太陽が踊ってるイメージが浮かぶ。



「キミ……どうしたの?」



え?