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無機質な音程が流れる。
放課後のチャイムすら、今日は憂鬱だ。
帰りの支度をしようとカバンを取り出す。
カバンの中には、人生最大の勇気を振り絞ったラブレターが眠っていた。
……一瞬だけ、軽音部の部室を覗いてこようかな。
なんて、ダメかな?
一瞬。ほんのちょっとだけ。
朝にあふれた一滴の涙の分だけ、ことはセンパイの歌が聴きたい。
灰色な気分を、少し、晴れにしてほしい。
それこそ、トワイライトブルーみたいな。
衝動に駆られるがまま、カバン片手に教室を飛び出していた。
向かう先は、玄関とは逆方向。
軽音部の部室。
ことはセンパイのところへ。
また音漏れを期待しよう。
……でも、期待するのは気が重くなる。
あぁ、雨がちっとも、止んでくれない。
部室の近くまでやってくると、急に足まで重くなった。
ズン、と鉛と化してしまったみたいに、速度が遅くなっていく。
元々臆病者な上に、一世一代の勇気が泡沫になっちゃったせい?
ぼやけたグレーを、簡単に鮮やかなブルーになんかできっこない。
ここまで来たけど、帰ろうかな。
練習の邪魔しちゃ悪いし。
いつしか足が止まっていた。
こういうところが、私の悪いところ。
今朝だって、ことはセンパイに近寄って話そうとしなかった。
そのラブレターは、私のです、って。
直接渡していたら、もしかしたら受け取ってくれてたかもしれない。
せっかくのチャンスだったのに。
自分が傷つくのが、嫌で。
自分が一番かわいくて、かわいそうで。
保身に走ってるだけなんだ。
雨よりもタチが悪い。
こんな私なんか。
私なんか……!



