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――ことはセンパイへ。
ことはセンパイのイメージであるトワイライトブルー色の便箋と封筒を、わざわざ探して買ってきた。
雫がポタリポタリ染みてるみたいな水彩のデザインで、一目で気に入ってしまった。
封筒の真ん中には、できるだけ綺麗な字で宛先を書く。
藤元【フジモト】和香より。
って隅に書こうとしたけど、やめた。
でも大丈夫。
便箋のほうにはちゃんと記してるから。
……ほんとに大丈夫だよね?
最終確認をして……といっても、もう封筒を閉ざしちゃったから、確認できるのは見た目だけなんだけど。
じめじめした梅雨にも負けずに、いつもよりも早めに登校して。
朝イチに、ことはセンパイの靴箱に手紙を入れた。
「これでよしっ」
あ、でも待って。
靴箱ってここで会ってるよね?
ちゃんと下調べしたのに、いざ入れてみると自信がなくなる。
いつもどおり物陰に潜んで、無事に受け取ってくれるまで見届けよう。うん、そうしよう。
眠い目をこすりながら、生徒玄関が見える距離に身を隠す。
今日は軽音部の朝練あるかな。
チクタク、チクタク。
どこからか響く時計の針の音が、脈拍のリズムを速めていく。
「今日はどの曲練習する?」
あっ、来た!
この声、拓麻さんだ!
「なりそこないのロマンチカ!」
「なんで急に?それ去年のだろ?新曲じゃねぇの?」
「実は昨日さ、廊下で『なりそこないロマンチカ』の歌詞が書かれた紙見つけてさ!なんか俺の中でブーム来ちゃったんだよね〜」
「なるほど、それでか」
うわ……うわあ!
バンドメンバー勢ぞろいだ!豪華だ!レアだ!!
一ファンとしては、興奮せざるを得ない。
何話してるんだろう。
楽しそうだなぁ。
「……ん?これ……」
ことはセンパイが靴箱に手をかけた。
つ、ついに来た、この時が!
「おっ、またか」
「今日もかよ〜!」
「相変わらずモテるな」
心臓がドックンドックン跳ね上がって、このまま皮膚を突き抜けてしまいそう。
体温が上がったり下がったりして、私の身体は大変なことになってる気がする。
ことはセンパイ、どう思ってるのかな……?



