「大事な試合の前に倒れたらどうする。髪、解くからな」


葉山先輩は私の返事を待つことなくゴムを解いて、タオルでどんどん髪の水気を とってくれる。


「あの、なんか手馴れてませんか?」


拭き方もガシガシと乱暴にするのではなく、タオルの生地の間に挟んで髪が痛まないように押し拭きをしていた。

気遣いが女の子並みなのだ。


「俺、下に二歳の双子の妹がいるんだよ。だから、世話焼いてるうちに自然と……な。三つ編みもずいぶん上達した」

「三つ編みって……ふふっ」

「今度はなんの笑いだ?」

「葉山先輩が三つ編みしてるところを想像したら、なんだか可愛くて」

「可愛いって、お前な……俺は六実より年上なんだぞ」


そんな他愛のない話をしていると、葉山先輩はご丁寧に私の髪を結うところまでしてくれた。


「キレイな黒髪だな。大事にしろよ」

「ありがとうございます、葉山先輩」


照れくささを抱きつつも、私はお礼を伝える。

すると葉山先輩はすっと目線を逸らして、頬を指で掻きだす。