紅葉色の恋に射抜かれて

「原因は、なんとなく察してます。だから、笑いたかったらどうぞ笑ってください。というか、頑張って笑いを堪えられているほうが恥ずかしいです」

「ぷっ、すまない」

「とりあえず、葉山先輩の笑いの波が引くのを待ちますね」

「そうしてくれ」


私の許可が出たのをいいことに、葉山先輩は肩を揺らしながら笑う。

それが落ち着いた頃、私は弓の先――『末弭(うらはず)』を壁の溝にあてて固定し、弓をしならせて弦を張りながら葉山先輩に話しかけた。

「先輩も毎日、自主練習してますよね。今のままでも十分すごいのに、どうしてそこまで弓を引くんですか?」

「そんなの、決まってるだろう。技術も精神力も賞味期限つきの生ものと同じだからな。今はうまくたって、努力を怠ればすぐに技術の鮮度は落ちる。それに……」


葉山先輩は自分の手のひらの肉刺(まめ)に視線を落としながら、わずかに口元を緩める。


「俺自身が弓道を好きなんだよ。弓に触れてないと、落ち着かないんだ」


なんで、そんなに迷いなく弓道と向き合い続けることができるんだろう。


葉山先輩はあたらなかったり、スランプになったりしたことがないから、そんなふ うにずっと弓道を続けたいって思えるのかな。

私は……正直言って、もう弓を引きたくなかった。

私がどんなに弓道を好きでも、矢はあたらない。

一向に気持ちには応えてもらえな くて、弓道に片想いしているみたいだ。

ほら、想うだけで想われないのって辛いから。