「ごめん」

 蓮斗がぼそっと言った。

「どうして謝るの」
「こんな結末だって知ってたら、誘わなかった」

 詩穂は瞬きを繰り返してどうにか涙を散らし、頭を起こした。そうして笑顔を作って口を開く。

「ううん、誘ってくれて嬉しかった。泣いてたのはね、ヒロインに感情移入しちゃって、あのイケメン俳優と結ばれなかったことが悲しかったの。あんなイケメンと結ばれるチャンスがあるなら、私ならすべてを捨ててもいい! はー、ホント、かっこよかった。マフィアと撃ち合いになったときのあのシーン! 彼女をかばって撃たれたときのあの表情! 苦しんでるはずなのに色気があってゾクゾクしちゃった。なんであんな人を去るままにしておくかな~」

 蓮斗は一度瞬きをした。

「そんな理由で泣いてたのか?」
「そうだよ。ほかになにがあるって言うの?」

 詩穂は言って立ち上がった。泣いたのは弘哉とのアンハッピーエンドを思い出したせいではない。思い出す間もなくどっぷりと感情移入していたからだ。

「あー、泣いた泣いた」

 詩穂が歩き出そうとしたとき、右手を蓮斗に掴まれた。

「置いてくな」
「置いてってなんかないよ」

 蓮斗が立ち上がり、右手にゴミを持って歩き出した。スクリーンを出てゴミを捨てるときも、詩穂の手を握ったままだ。