時計を見ると一時ちょうどだ。

「すぐ出ます」

 詩穂はスマホをバッグに入れてコートを羽織り、玄関に向かった。

「お待たせ」

 ドアを開けた瞬間、蓮斗が目を見開く。

「どうしたの?」
「おまえ、まだ寝てたのか?」
「はぁ? ちゃんと起きてたよ!」

 蓮斗はクスッと笑って、詩穂の肩の上で踊っている毛先に指を巻きつけた。

「寝癖ついてる」
「ええっ、そんなバカな! ちゃんと十時半には起きてたもん!」
「ふぅん。十時半が『とっくの昔』ねぇ……」

 蓮斗にじとっとした目を向けられ、詩穂は慌てて部屋の中に引き返した。鏡を見ると、さっきベッドで横になっていたせいか、毛先が変な方向に跳ねている。

「わっ」

 急いでブラッシングしてどうにか髪を直し、再び玄関のドアを開けた。

「……ホントにお待たせしました」

 詩穂のしおらしい態度を見て、蓮斗はくっくと笑った。今日の蓮斗は、白のカジュアルシャツに細身の黒デニム、ショート丈のキャメルコートという格好で、ラフながら落ち着きのあるファッションだ。

 蓮斗は詩穂の頭にポンと手を乗せた。

「おまえ、意外とおもしろいな」
「楽しんでいただけてなによりですっ」

 詩穂は頬を染めながらドアに鍵をかけた。恥ずかしい気持ちから、蓮斗の方を見ずにずんずんエレベーターへと歩いていく。