詩穂は慌てて自分の体を見下ろした。今すぐなんてとんでもない。まだパジャマ姿なのだ。

『“とっくの昔に”起きてたんだろ』

 電話の向こうで笑い声がした。からかわれたのだとわかって、詩穂は頬が熱くなるのを感じた。

『小牧がまだまだ出かけられそうにないから、待ち合わせは昼過ぎにしようか。映画を観て一緒に晩飯食おう』

 前半にはカチンと来たが、事実である。詩穂はため息をのみ込んだ。

「わかった。じゃあ、一時ぐらいでいい?」
『おう。一時におまえの部屋まで迎えに行くよ。夜は飲みたいから電車で行くぞ。映画館は梅田(うめだ)でいいかな?』
「うん」
『座席、予約しておくよ』
「ありがとう、よろしく」

 電話を切ると、ワクワクしてきた。久しぶりの映画だ。

 詩穂はシリアルを食べ終え、クローゼットを開けた。なにを着ようかと思案しながら、あれこれ手にとって体に当てながら鏡に映す。

「うーん、これは弘哉さんと一緒に買ったスカートだから、今日は穿きたくないな……。このブラウスはかわいいデザインだけど、色が秋っぽくないし……」

 悩みながら、深みのあるパープルのプリーツスカートに、ゆったりした白のVネックニットを選んだ。大人っぽさの中にも女性らしさがあって、なかなかいいコーディネートだ。