「あれぇ、ごめんね、涙が止まらない……」

 手の甲で涙を拭ったとき、蓮斗の手に顎をすくい上げられた。

「俺のことは気にするな。だけど、おまえの泣き顔を見ているのはつらい」

 そう言ったかと思うと、彼は顔を傾け、詩穂の目尻にそっとキスを落とした。

「すど……」

 詩穂はびっくりして目を見開いた。涙をチュッと吸い取られ、驚いたせいで止まったのか、瞬きをしてももう涙はこぼれなかった。

「止まったようだな」

 蓮斗が照れたように微笑み、詩穂も同じように頬を赤くして頷く。

「じゃあ、紅茶を淹れてくるから、ソファに座って待ってろ」

 蓮斗がぶっきらぼうに言って、詩穂から離れた。目の端に、蓮斗がパーティションの向こうに消えるのが映る。詩穂はそっと目尻に手をやった。蓮斗の唇の感触がまだ残っているようで、それを意識したとたん、胸がドキンと鳴った。

(私があんまり泣くから、かな……)

 土曜日のおでこへのキスといい、今さっきの目尻へのキスといい……蓮斗はスキンシップが過剰な気がする。きっと彼の姉の影響に違いない。彼女も幼い息子に同じようなことをしているのだろう。

 詩穂はゆっくりとソファに腰を下ろし、膝に肘をついて両手で顔を覆った。