独占溺愛~クールな社長に求愛されています~

 蓮斗はきっぱりと言った。美月が呆れたような声を出す。

「情けないわね。社員のひとりやふたりくらい辞めたって、どうってことないじゃない。それなのにこんなところで会ったからって急な退職を責めてたわけ? あなたの会社の状況を考えたら、むしろリストラの手間が省けてよかったってものでしょ。もっと長い目で物事を見なさいよ」
「美月さん」

 おろおろと美月を見る弘哉を見て、詩穂の心の中で凝り固まっていたなにかが緩んでいくのを感じた。

 弘哉の前で詩穂が自分を取り繕っていたように、彼も詩穂の前では優しい大人の男性を装っていたようだ。お互い本当の姿を見ていなかったし、見せていなかった。

「浅谷社長、ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」

 詩穂は深々とお辞儀をした。弘哉はどうにか体勢を立て直し、詩穂に向き直った。

「いや、そんなことは。急な退職に驚いていたものだから、動揺して責めるようなマネをしてしまった。申し訳ない。それより、婚約おめでとう」
「ありがとうございます」
「よかった。もう大丈夫ですね。それでは、失礼します」

 蓮斗は言って、詩穂の肩を抱いたまま歩き出した。促されて歩を進めながら、詩穂は全身から力が抜けるのを感じた。