五十階に到着して、真梨子に案内されながら、詩穂は左手にあるイタリアンレストランに向かった。

 白い壁にダークブラウンの柱というシックな雰囲気の店で、真梨子が社名を伝えると、すぐに大部屋に案内された。すずらん型のライトに照らされた落ち着いた部屋で、壁の一面が窓になっていて、都会のきらびやかな夜景が望める。十月下旬というのもあって、遠くに見えるデパートでは、壁にハロウィンのイルミネーションが施されていた。

 ほどなくしてほかの社員も到着し、スパークリングワインと前菜が運ばれてきた。さすがこんな高層ビルの上階に入っているレストランだけあって、ワインも料理も上品なおいしさだ。

「サンマのカルパッチョって初めて食べた。サンマってオリーブオイルと合うんだ」

 隣の席で真梨子がカルパッチョを口に入れて、「おいしい~」と言いながら両手で頬を押さえている。年下の詩穂から見てもとてもかわいらしい。

 そんな真梨子は夫と付き合って半年で結婚したのだという。詩穂は三年も付き合ったのに、弘哉とは結婚に至らなかった。そんなことを考えて、苦い思いが湧き上がってくる。

(ダメダメ、今日はみんなが私のために開いてくれた歓迎会なんだから!)