詩穂はぺこりとお辞儀をした。

「小牧さんは俺と同じ大学の出身で、信頼できる女性です」

 蓮斗は詩穂のことを紹介したあと、社員をひとりずつ順に紹介してくれた。続いて、今この場に出社している社員以外にも、ソムニウムの社員がいるのだと教えられた。

 子育てとの両立のために在宅勤務をしている女性社員がふたり、男性社員がひとりいて、ゲームのプログラミング、ソーシャルメディアでの情報発信、アプリや説明書の翻訳などを担当しているのだそうだ。ほかに、育児休暇中の男性社員がひとりいるという。オフィスの明るい雰囲気や充実した福利厚生などからも、ソムニウムが時代を先取りしているのだとわかる。そんなソムニウムで働けることが誇らしい。

「それじゃ、今日からよろしく。みんな、ありがとう。仕事に戻ってください」

 蓮斗が声をかけて、社員がそれぞれのブースやデスクに戻り始めた。けれど、ひとりだけ戻らずに詩穂に近づいてくる。

「小牧さん、俺のこと覚えてる?」

 グレーのパンツにワイシャツを着たその男性は、にこにこしながら自分の顔に人差し指を向けた。蓮斗からは副社長の佐藤(さとう)啓一(けいいち)だと紹介されている。同い年くらいで、髪は短めにカットされていて、縁なし眼鏡をかけた清潔そうな印象だ。