真梨子は嬉しそうに“ノンカフェイン”と書かれたアルミパックを取り上げた。

 わざわざ私のために紅茶を揃えてくれたのかと思うと、なんだか胸がくすぐったい。それとともに、そこまでしてくれたのだから、がんばってみんなの役に立たなければ、と気を引き締めた。

「ここにいる女性社員は私だけだから、詩穂ちゃんが来てくれてすごく嬉しい。社長の大学の同級生なんだよね?」

 真梨子が電気ケトルに水を入れながら訊いた。詩穂はコネ入社だと思われるだろうかと不安になりつつ、「はい」と答えた。

「ね、詩穂ちゃんってもしかして社長の彼女さん?」

 真梨子に興味津々といった視線を向けられ、詩穂は目を剥いた。

「まさか! 違いますよ、先週の金曜日に偶然再会したんです。約一年ぶりに」
「なぁんだ、そうだったんだ……。詩穂ちゃんが社長の彼女だったらよかったのに~。社長、インターンの事件があってから、しばらく無理して仕事に打ち込んでる感じがあったから……」

 そこまで言って、真梨子はハッとしたように右手を口に当てた。

「今の話……聞かなかったことにして! インターンのことはみんな社長に気を遣って黙ってるから!」
「ええと……その話なら金曜日に須藤くん……須藤社長から聞きました」