「詩穂ならわかってくれるだろう?」

 彼が言った通り、もうどうしようもない、ということだけはわかった。

 詩穂は無言で頷く。

「すまない」

 弘哉が右手を伸ばして、詩穂の肩に触れる。

「だけど……さっさと結婚して落ち着いたら、またここに来る」
「え?」
「毎週は無理だけど、バレないように一ヵ月に一回くらい。そうだな、金曜日の夜なら大丈夫だろう。出張とか取引先との会食とか言ってごまかすよ」

 弘哉の言葉の意味がわからず、詩穂はぽかんとした。

「なにを言ってるんですか?」
「詩穂とは結婚してやれない。だけど、付き合いを続けることはできる。ふたりきりで会うことはできる」
「それは……つまり、私にあなたの愛人になれと?」
「結婚できない以上、そうするしかない」

 詩穂は弘哉の顔をまじまじと見た。彼は真剣な表情だ。

「私……私、弘哉さんのことは誰よりも好きです。でも、愛人にはなれません」
「どうして?」
「どうしてって……社会的に認められない関係になってまで、弘哉さんと付き合い続けたいとは思いません」