『だからね、詩穂が気に病むほど、あの失敗は私にとって大打撃じゃなかったんだよ』
「そう……かなぁ?」
『そうだよ! あの経験を活かしたからこそ、今の私がいるの。だから、詩穂にも絶対に幸せになってほしいんだ。そんなタラシの最低男とはすっぱり縁を切ってさ。ね?』
「うん。蓮斗とはすっぱり別れる。二、三発殴ってすっきりしてからね」

 詩穂は笑いを誘ったつもりだったが、亜矢美は笑わなかった。

『ねえ、本当に迎えに行かなくて大丈夫? いいように丸め込まれたりしない? 詩穂は人がいいから心配だよ』

 詩穂はしゃがんでスーツケースにCDと本を詰め、片手でふたをしてファスナーを閉めた。

「大丈夫だよ。亜矢美、そんなに心配しないで。私、意外と強いんだから。蓮斗のことなんてさっさと吹っ切って、すぐに新しい恋を見つけてみせるから!」

 本当はそんなに早く気持ちを切り替えられる自信はなかったが、亜矢美を心配させまいとしてそう言った。直後、いきなり背後からギュウッと抱きしめられた。

「きゃあああっ」

 驚きのあまり詩穂の手からスマホが落ちた。大きな音がしてスマホがフローリングを滑り、スピーカーから亜矢美の声が漏れ聞こえてくる。