詩穂のメッセージにすぐに既読マークがついたかと思うと、亜矢美から電話がかかってきた。

『もしもし、詩穂? ホントに大丈夫なの? 昔のことを気にしてるんだったら、そんなことはもうぜんぜんいいんだからねっ』

 懐かしい亜矢美の声が聞こえてきて、詩穂の緩みっぱなしの涙腺からまた滴が溢れる。

「ありがとう、亜矢美。亜矢美は今、どうしてるの?」
『え? 私? 私の話を聞いてて大丈夫なの?』
「うん、今はひとりだから大丈夫」

 詩穂は言いながら、蓮斗とシェアしている東向きの部屋に入った。彼の方のスペースを見ないようにしながら、ラックからお気に入りの小説とCDを抜き出した。

『私は大学を卒業して働きながら、起業セミナーにちょくちょく参加してたの。それで、そこで知り合った人たちと起業したんだ。で、今はその中のひとりと付き合ってて、結婚も考えてるよ』
「そうだったんだ。よかった……」

 詩穂はリビングに向かいながら言った。美沙だけでなく、亜矢美までも幸せを手にしていることが嬉しかった。

 スピーカーから亜矢美の声が聞こえてくる。