詩穂はコートを脱いで、ベッドルームのクローゼットからスーツケースを出した。それに入るだけの衣類とメイク用品を詰め込み、リビングへと運ぶ。

 忘れていたスマホを取り上げたとき、着信を示すライトが点滅しているのに気づいた。蓮斗から不在着信が二度ある。一度目は十一時十五分、二度目は一時五十分。メッセージがいくつか届いていて、トークの画面を見たら、蓮斗から二通、亜矢美から一通届いている。

 蓮斗のメッセージを見るのは怖くて、詩穂は亜矢美からのメッセージを開いた。

【久しぶり。亜矢美です。美沙から連絡をもらって、詩穂が大変だって知りました。もし行くところがなかったら、うちにおいで。兵庫県に引っ越したんだけど、詩穂のところまで車で迎えに行くから】

 亜矢美も学生時代と同じように詩穂のことを心配してくれている。そのことに胸を熱くしながら、詩穂は返信を打ち込む。

【心配かけてごめんね。すぐには会社を辞められないし、しばらくはホテル暮らしをするよ。今度こそ本当に再出発する。そのときにはもしかしたら助けてもらうかもしれないから、よろしくお願いします】