その翌週の土曜日、詩穂はさしあたり必要な着替えや化粧品、お気に入りの本やCDをスーツケースに詰めて、蓮斗の部屋にやってきた。今住んでいるマンションは十一月末に退去することになり、それまでに引っ越し業者に引っ越しを依頼するつもりだ。

「お世話になります」

 詩穂は玄関に入るなり、改まってお辞儀をした。顔を上げた瞬間、蓮斗に抱きしめられる。

「こちらこそよろしく」

 詩穂の唇に蓮斗の唇が重なり、やがてキスが深くなる。

 詩穂は蓮斗の胸を両手で押した。

「荷解きさせて」
「……うーん」

 悩んでいるような声を出しながらも、蓮斗はキスをやめない。

「蓮斗!」

 詩穂が上体を仰け反らせて、ようやく彼の唇が離れた。

「じゃ、さっさと荷解きを終わらせてもらわないと。詩穂はこっちの部屋を使うといい」

 蓮斗の部屋は南東の角部屋で、2LDKの間取りだ。その東側の部屋に詩穂を案内した。

 そこは六畳ほどの洋室で、部屋の片隅にはパソコンデスクのほかに、複合機が乗ったラックがあり、何冊かパソコン関係の本が置かれていた。