「れ、蓮斗がそう言ったから。『礼は言葉じゃない方がいい』って言ったから……」
「俺は最低だな」

 蓮斗は低い声で言って、顔を背けた。

「弱っている詩穂につけ込まないって決めてたのに、礼を口実にしておまえを抱いた……。だけど、友達でいるのは本当にもう限界だったんだ。橋の上で詩穂に再会したのは運命だと思っていたから」
「運命って……?」

 蓮斗は前髪をくしゃりと握って言う。

「大学時代、詩穂のことが好きだった。なんにでも積極的で理想を追求しようとする詩穂の姿勢に励まされた。起業コンペで優秀賞を獲れたのは、詩穂に負けまいとがんばったからだ。同じ学部で同い年で……誰よりも輝いていた。あの頃、おまえは俺のことを男として見てくれてなかったけど、俺はおまえのことが本当に好きだった。ライバルでも友達でもなく、ひとりの女性として惚れていた」

 詩穂は驚いて目を見開いた。

「弘哉さんに言ったことは……本当だったの?」
「半分は本当だ。でも、再会したときは、友達に戻っていたつもりだったし、おまえが『友達だ』って言うから、俺もそのつもりでいた。だから、困っていたおまえを雇えたんだ……」

 蓮斗は淡い笑みを浮かべて続ける。