蓮斗の手が詩穂の頬に触れた。その手が詩穂の髪を梳くようにして後頭部に回され、ゆっくりと唇が重ねられた。優しいキスと愛おしむような仕草に胸が苦しくなって、詩穂は背を仰け反らせた。

「ま、まだ……するの?」
「詩穂はしたくない?」

 蓮斗の指先がそっと背筋を撫で下ろし、腰の辺りに淡い痺れが走る。

「だ、だって……」
「詩穂のこと、何度でも欲しくなるんだ」

 蓮斗に抱き寄せられ、彼の逞しい胸板が柔らかな素肌に触れて、体温が上がっていくのがわかる。蓮斗の存在が大きくなりすぎて、これ以上彼を感じたら、彼の虜になってしまう。ただの部下として割り切って働けなくなる。

「お礼って……こんなに何度もしなくちゃいけないの?」

 これ以上溺れる前に彼から逃れたい。その一心で詩穂は蓮斗を見上げた。その潤んだ目を見て、蓮斗が目を見張る。

「なんだって?」
「だ……って、これは昨日話を合わせてくれたことへのお礼なんでしょう?」

 蓮斗が詩穂の肩に両手を置いて、まじまじと顔を見た。

「まさか、詩穂は昨日の礼のつもりで俺に抱かれたのか?」

 そう問われて、詩穂の胸がズキンと痛んだ。本当はこれ以上好きになったらダメだとわかっていたのに、蓮斗への気持ちがどうしようもなく高まって、彼に求められたことが嬉しくて……昨夜は彼に応じたのだ。彼の腕の中にいる間は、お礼のつもりではなかった。