「そう……だよね」

 信じていた相手に裏切られる悲しみやつらさ、怒りは自分も味わったばかりだ。それなのに、なんてことを言ってしまったのだろう。

「ごめんね……」

 詩穂の表情が沈んだのに気づいて、蓮斗が笑みを作る。

「なんて顔をしてるんだ。そんな顔を見せられながら食う俺の身にもなってみろよ。せっかくの料理がまずくなる」

 蓮斗は憎たらしい顔で言って紹興酒のグラスを持ち上げた。

(強がってるのは……須藤くんの方じゃないの?)

 けれど、そんなことを言うわけにもいかず、結局いつもの通り憎まれ口を返すことにする。

「席の向かい側にいるのが絶世の美女じゃなくて悪うございましたね~」

 べーっと舌を出してやると、蓮斗が苦笑した。

「最初から絶世の美女なんて期待してないよ」
「あーら、私は絶世の美男子を期待してましたけどっ」
「なんだよ」
「なによ」

 お互い相手を睨んでみたが、すぐに噴き出した。笑い声に場が和んで、それからはおいしく食事を楽しんだ。



 店を出たときには、心もお腹も大満足だった。熱々の料理に体が温まって、気持ちもほかほかだ。