私を繋ぐ優しい手錠




「俺は隣の部屋にいるから、ここは好きに使って」
「…ごめんなさい」
本当に申し訳ない。ここまで優しくされても返せるものなんて何一つ持ってないのに。
「来栖さん……?」


あれ、私ってこんなに弱かったっけ…?


涙が止まらない。
さっき、余計なことを考えてしまったからだ。
さっき、優しくしてもらったからだ。


さっきの言葉が、きっと嬉しかったからだ。


優しく、同じ匂いに包まれた。
慈しむように、優しく。
彼とはまた違う、暖かいものだった。

「ごめ…ッッ」
必死に目を擦る。ダメだ、泣き止まないと。いくら拭えど、止まることを知らない。なんで、なんで、こんなに脆くなってしまったのだろうか。

「大丈夫だから、大丈夫、ね?」

心地の良い声音、大丈夫、と繰り返す神代くん。今までだったら、何が大丈夫なのたろうか、たと考えてしまうだろう。だけど、神代くんの大丈夫は本当に大丈夫な気がした。

「きっと、大丈夫。明日だけ学校に行ったら、明後日は来栖さんの行きたいところに行こう。そしたら、明明後日は俺の行きたいところに付いてきて。その次は学校を休んで少し散歩をしようか、二人でゆっくり」


約束だけを押し付けて、優しく呟く彼。
神代くんには私が死にそうに見えているのだろうか。だから、先のある約束をするのだろうか。いや、実際そう見えているのだろう。
大丈夫、死なない。優しい彼の約束を破る訳には行かないから。

「ありがとう、神代くん」

落ち着いてきた頃には、少し眠気が襲ってきていて。
神代くんも回していた腕を解き、心配そうに私を見つめた。何度見ても、優しい瞳だ。

「私は、大丈夫」


自分に言い聞かせるように、呟いた。