なぜ、OKしたのか。

「深い意味は、ないと思う」

だけど、初めて優しく自分を見てくれた。
あの瞳を忘れられずにいる。

「きっと、神代くんが優しいからだよ」
「…そっか」
「…ごめんなさい」
「どうして来栖さんが謝るの?」
傷つけてしまっただろう、と思ったが神代くんはどちらかと言えば嬉しそうだった。

「本当は、来栖さんは俺の事を嫌いなのかなって思ってたから。だって、全然話したことないのに告ってさ、授業サボらせて。来栖さんみたいな真面目で優しい人は俺みたいなはぐれ者嫌いかなって」
少しだけ自嘲的に笑う。

「そんなことないよ。神代くんは私が今まであった誰より優しいと思うし…。私だってはぐれ者だし、…何より全然綺麗じゃない」
嫌な記憶が蘇る。
自分自身を塗りつぶされた過去。

気がつけば自分自身の左手首を強く握っていた。


「来栖さんは、すごく優しいよ。優しいし、綺麗だ。だから、そんなこと言わないでね」


“もうこんなことしないって約束してね”


あの日の言葉が蘇る。

「分かった。………だから、神代くんも自分を卑下し過ぎないでね」

そういうと、彼は驚いたように目を見張り、口元を綻ばせた。

「ありがとう」


そんな彼の笑顔はとても心が暖かくなるものだった。