「来栖さんは覚えてないかもしれないけどさ、あの雨の日よりも前に1回だけ話したことがあるの知ってる?」
「…覚えてるよ、補習の時にね」
「あ、覚えてたんだ。……その時からずっと仲良くなりたいと思ってた」

1度だけあの雨の日よりも前に話したことがあった。テストの日休んでしまった神代くんが補習を受けていた時に、偶然教室で会った。その時、勉強で悩んでいるみたいだったから教えてあげただけ。ただ、それだけ。

「ただ、1度話しただけなのに?」
「うん、俺に優しくしてくれるの来栖さんくらいだよ」
「……他にも沢山女子がいるじゃない。優しくしてくれる女子が」


すると悲しそうに俯く。金色の髪で目が隠される。それによって表情が読みにくい。

「女子は律に優しくないさ、顔がいいからそばに置いておきたいってだけ」
それで1度トラウマがあってさ、と宮野くんが続ける。
「由里、これ以上はいい。また今度自分からちゃんと話す」
そう言った彼はいつもよりずっと悲しそうだった。


きっと、彼も過去に囚われている。