容姿端麗。
将来安泰。
運動神経抜群。
ただし、自意識過剰。

それがディレストへの評価だった。

容姿端麗。
頭脳明晰。
社交的。
ただし、野心がない。

これがディレストの弟であるブレストの評価だ。

「兄上の我儘は最近どう?」

「相変わらずですよ」

騎士たちの訓練に混じって汗水垂らす、というディレストの日課の間、こうしてキリアスは弟のブレストの元へちょくちょく赴いている。
ブレストは十五歳だがもう背丈はディレストほどあり、瑞々しい若さが溢れ出た笑みは人々を虜にする。

彼を次期王に、と望む者が多いことも頷けるような落ち着きっぷりではあるが本人はそれを望んでいない、ということをキリアスが一番よく聞かされていた。
こうして優雅に紅茶の入ったティーカップを口元に寄せる姿すら絵になっているというのを、本人は未だ自覚していない。

「最近では早朝のエビ漁に同行したんだって?」

「はい。私とディレスト様以外の他の者は皆、船酔いでダウンしていました」

「ははは。それは見ものだね」

「次は海沿いに住んでいた者を厳選して連れて行くことにします」

「うん。それがいい」

二人が談笑している姿を遠巻きに見つめる侍女たち。
何をお話されているかはわからないけれどとても絵になっている、と専らの評判だ。
そんな評価をされていることを当の本人たちは知らない。

ディレストと同じ金髪をしたブレスト。
方や、漆黒の髪をしたキリアスがいることでその対比が相乗効果を生み出し、キリアスに関しては普段の近寄りがたさが軽減して見える。

ほう、と侍女たちは今日もため息ばかりをついていた。

「君はよくやっているよ。あの兄上を見限らず傍にずっといるんだから」

「それは…以前から申し上げていますが、あなたの言葉を聞いたからです」

(僕は守られる王になるだろうけど、兄上は守る王になるだろうね)

と、ブレストは自身の考えをキリアスに吐露したことがあった。

頑健な兄は周りに頼ることなく先頭に立って困難に立ち向かおうとする。
それは結果的に後ろにいる国民を守ることになり、王の背中に国民はついていくことになる。
しかし弟が王となったとき、先頭に立つのは兄であり、王ではない。
結果的に皆に守られることになり、国民が背中に庇う王となってしまう。

どちらが良いのかブレストにもキリアスにもわからないが、ブレストは前者が望ましいと考えている。
そして、自分にはそうして先頭に立つ勇気がないことも自覚していた。