「そうだよ。夜は見回りが厳しかったからさ、朝早くきてビリビリに刻んでやったんだ。…あ、そうそう。あんたの担当だったシンデレラの家の背景も、黒で塗り潰したんだけど、どうだった?面白かった?」


彼が、なにを言っているのか、理解できない。自分たちで作ってきたものを簡単に壊されて、面白いはずがないじゃない。怒りと悲しみとが同時に襲ってきて、涙が溢れてきた。


「理想の王子さま像を俺に押しつけて、楽しかった?」


ツキ先輩は、わたしの小指に嵌めていた指輪を乱暴に外すと、上履きの踵で思い切り踏み潰した。


「残念でした。王子さまの正体は、ヒロインを誑かす悪魔だったのですー」


掌から、意味をなくした三枚の無料券が床に落ちた。期待して、ばかみたいだ。わたしは最初から、ツキ先輩の視線の中に入ってすらいなかったのに、ヒロイン気取りで情けない。


「…あんたの、絶望に打ちひしがれてるその顔が見たかったんだよ」


涙が次から次に落ちてきて、上履きの先端を、無料券を容赦なく濡らす。ツキ先輩が、わたしを地獄に叩きつけるような、ひどい言葉を放っているけれど、心ここにあらずな今の状態では、立っているのがやっとだった。


「そのまま、弱い心に負けてしまって、楽になれよ。そして、ショーコ先生をこれ以上傷つけんな」


ツキ先輩は、心底嬉しさを隠しきれないような下劣な笑みで、わたしの肩を押す。反抗する力が屁ほどもないわたしには、目を瞑って、されるがままに倒れるしかなかった。