彼は幾度となく、さらりと「好き」を口にする。

それは小動物に対する「可愛い」と同じくらいの頻度で。

最初はそれがあまりにも多過ぎて、信じ切ることが出来ずに、イライラもした。

でも、指を絡めて二人の吐息を重ねた時にくれる、切羽詰まったような愛の言葉には、いつも歓喜に震えた。


もう、いい年を越えた二人だから、最果ての後で、若い子たちのようなラブモードにはならないけれど、甘い睦言なんてなくても、ただ瞳を見つめられるだけで嬉しかった。


彼の指はなだらかにピアノの鍵盤を叩くようなスピードで、いつも私を極みに連れて行ってくれた。


泣けるほど、幸せな時間。


溺れていく、彼という湖。
私の全てを捧げても、それでもまだ足らない愛の輪廻。


足らない。
足りない。
貪欲に広がる愛情。

ただ、求められているだけなのに、こんなにも苦しいなんて、私はどこまで彼のことを好きになってしまったのか…。

抱かれる度にむせび泣く私の頬に触れて、満足気に笑みを浮かべる彼が…死にたくなるほど愛おしかった…。

こんな私のことを、ほんの少しでも「愛してる」と言って、優しく抱いてくれる人は今までいなかったと思うくらいに。

「好き」よりも「愛してる」が気持ちに追い付くようになったのは、そんなに時間が掛からなかった…気がする。