「…ん。可愛い」

「え?」

「なんでもなーい。お前イケる口だよな?酒飲めば?」


サラッと何かを言われて、聞き返すとドリンクのメニュー表を見せられ、話題を変えられてしまった。


「いやいや。小窪さん飲まないのに…飲めないですよ」

「いーじゃん。送り狼にゃならないって約束するから」

「……その顔が信じられない…」

「なーんでよ?紳士だっつーの」


むっつりスケベの間違いじゃないの?と言い掛けて、あまり抵抗するのも大人気ないと思い直し、私は開かれたメニュー表を眺める。


「本当に飲んでも?」

「良いって」

「じゃあ…ハイボールで」

「お前、ロック派じゃなかったっけ?」

「…何故それを……」

「や、前に飲み会の時飲んでんの見たことあったから」


何処まで人のことを観察してるのか…。
呆れ返って、彼の顔を斜め見すると、ごめんごめんと笑われた。

「……じゃあ、お言葉に甘えてバーボンロックで」

「よし。飲め飲め。今夜は無礼講な」

「何時もでしょ!」

「あははははっ」


そんなやり取りの中で、美味しいお刺身と珍しい創作料理に舌鼓を打ち、私は彼と楽しい食事を済ませた。

次の日は当然休み。
少しくらい羽目を外しても、と思い少し飲み過ぎたのが痛い所だったけれど。

宣言通り、しっかりと家に送り届けてくれた彼に対して、親の好感度は良く聞く噂よりも遥かに超えて急上昇。


そんなこととは露知らず、少々飲み過ぎた私はきちんとしたお礼も言わずに自室に戻り、シャワーも浴びずにブラックアウト。

案の定、翌日は二日酔い。
顔も浮腫んでいて最悪。

更には……親にしこたま怒られて、頭がかち割れるかと思う程痛かった。


「明日仕事に行ったら、ちゃんとお礼とお詫びするから!」

何度目かの台詞にやっと納得して大人しくなった親に向かって、心の中で「暫くは外では飲むまい」と決めたのだった。