《 NO side 》

ここは毎日たくさんの人々が行き交う都会の中心部から徒歩5分程離れた場所。

ビルが建ち並び、車のクラクションや人々の話し声など日常のざわめきから切り離されたそこには一つの異なる空間が存在する。

広大な土地の中には趣のある立派な煉瓦造りの校舎、太陽の光に反射して輝く巨大な門、芸術的な女神像の彫刻が施された噴水、美しく植えられた花や草木など。

制服は男女共にブレザータイプであり、上品な純白の生地に加え、袖口や襟元には美しい金糸で繊細な刺繍が施されている。

そんな彼らが通うこの学園は今日も青銅の鐘を鳴らして一日の始まりを告げていた。

ここは"私立朝陽大学付属高等学校"。

幼稚園から大学までのエスカレーター式である超エリート校として日本だけに留まらず、世界でも有名な学園である。

政界や芸能界まで卒業生は多くの分野で活躍し、この学園を卒業した者となれば将来は安泰と言われていた。

しかし、有名なのは学園だけでない。

その学園を統括する存在である"生徒会"も異常な程の注目を浴びている。

普通の生徒が何故そんなに注目されるのかと疑問を抱いたことだろう。

簡潔に説明すると、生徒会である彼らは"普通"とはかなりかけ離れた存在だからである。

容姿・頭脳・家柄、全てを兼ね揃えた彼らは学園にいる生徒達からは憧れの対象であり、大人達からはこれからを担う若者として期待されていた。

その多大なる権力を持つ生徒会組織を仕切る頭である生徒会長は別格中の別格だというのには皆、既にお気付きだろう。

名を神楽 陽乃(カグラ ヒノ)。

その発言一つで様々な事態が大きく変化していく程、彼女の影響力は凄まじいのである。


『ふむ、この時期に転入とは…実に珍しい』


聖堂での朝礼開始の合図である鐘の音が鳴り終わると同時に彼女は椅子から立ち上がった。

確認していた転入生についての資料を机の上に置き、引き出しから一つお面を選び手に取る。

頭の後ろで紐を結び、彼女は静かに生徒会室を後にした。



扉の閉められた生徒会室にヒラリと一枚の桜の花びらが窓の隙間から入ってきた。

桜はもうすぐ葉桜へと。

季節は春、心地好い風が新たな出会いを学園に運んでくる。