俺は
学校の成績もよかったし
器用に物事を進めることができたから


大学もそれなりのところに通えて、就職も有名企業に入って、
毎日、忙しく生活していた。

全て、順調だったから忘れていた。

自分のタイムリミットを。

27歳の時
いきなり大きい発作が起きた。
病院に搬送されて、そこであと一年。
移植が出来なければ、生きられないと言われた。

しかも、俺の場合、移植も難しいみたいで、ドナーが見つかっても助かるかどうかわからないと言われた。

心臓外科に強い隣町の病院に、転院して、
そこで落ち着くまでしばらく入院となった。

確実に時間は失われていくなか、
病院にいるのと、気が滅入ってしまい、外に散歩によく出かけた。

転院したこの病院は、最近、建物を新しくしたと同時に、場所を移動させたと、聞いた。
病院の近くに神社があって、そこの境内に大きな桜の木があった。



生命の力にあふれて
ずっと長い時間をここで、この景色を見てきたこの桜の木。

幹に触ると力をもらえそうだった。

体調が安定しているときはいつもこの桜の木を見ていた。

入院してしばらくすぎて
いつしか、桜の季節になり
大きな桜の木も美しい花を咲かせた。

いつものように外出許可をもらって、
桜の木の下にたっていた。

春の訪れが感じられるような暖かい風が舞い、
空中にが桜色になった。

無数の桜の花弁が舞うなかに、人影が見えた。

一瞬目があって、
そして、
目が離せなくなった。

「病院の人?」
「えっ」

肩まである綺麗な栗色のふわふわゆるい髪を揺らしながら彼女は俺の方に歩いてきた。



「だって、手首にリストバンド。それ、あの病院のでしょ?」

病院の証明のリストバンド。

外出時間はリストバンドを切って、また、戻ったら新しいのをつけても、大丈夫なんだけど、
いつも、すぐに、病院に戻るからあまり気にしていなかった。

「君は?」

グリーンのワンピースがよく似合う彼女が俺を見て微笑む。

桜の花ビラが彼女の柔らかい髪にたくさん纏わり付いて、いつか見たことがあるディズニーのヒロインのようだと思った。

あのヒロインの名前はなんだったかな。

漠然と思い出そうとしていたとき

ふと、手のひらに暖かい感触を感じた。

「これ、今度ここで、お祭りがあるの。よかったら来て」
彼女が、笑顔で桜祭りと書かれているカラフルなペーパーを渡してくれた。

「この桜の木ね、桜祭りの夜に黄金に輝くときに願い事をいうと叶うんだよ。でも、それは選ばれた人しか見れないんだって」


綺麗なアーモンドの形をした瞳が人懐っこい印象を与えた。
「叶えたい願いがあるの?」
「うん、あるよ。大切な人のために叶えたい願いがあるの。」
彼女は愛おしそうな表情をした。

「願い事叶うといいね」

俺は自然とそう、口にしていた
また、風が強くて吹いて、周りの景色が桜色になった。

風が止むと、すでに彼女はいなかった。