先生もバイオリンを選択するなんて予想外だっただろうに、ちゃんと付き合ってくれるんだ。


そう思いながら、言われた通りにやってみる。


ドからオクターブ先のドまでの練習。


バイオリンって、音が鳴るだけで楽しい。ピアノはすぐやめちゃったけど、バイオリンならもう少しは続いてたかも。と思ってしまうくらい。



授業を終えて、教室に戻った。


「指つかれたー」


西田さんが教卓の前で、ぐうっと伸びをする。


「でもバイオリン楽しかったね!全っ然ひけないけど!」


栞ちゃんがおかしそうに笑う。


その片足が一歩後ろに下がった時、ちょうど栞ちゃんの後ろを通った大賀君にぶつかった。


「お、ごめん」

「ごめん!足踏んじゃった」


両手を合わせて謝る栞ちゃんに、大賀君が聞く。


「選択音楽って今バイオリンしてんの?」


「自由なんだよ。何の楽器やっても良くて、なんとなく三人でバイオリン選んだんだ」


栞ちゃんが答えた隣で、西田さんがいたずらっぽく目を細めた。


かと思えば「大賀のカノジョ、天才かもよ?」


なんて……わざわざ“彼女”を強調して言う。