「嫌とか嫌じゃないとか、そういう問題じゃないでしょ」

「そういう問題ですよ。俺、ここまで拒否られたことないんで、結構傷付いてるんですけど」

「私はあなたの上司だもの。普通、受け入れないでしょう?」

「だけど、部下としても連絡先を教えたくないくらい、俺のこと嫌ってるってことですよね?」

私を見つめる広沢くんの瞳が淋しそうに翳る。

その表情を見ていたら、自分が悪いような気がして複雑な気持ちになった。


「広沢くんのこと嫌ったことはないし、部署内でもよく頑張ってくれていて、頼りになる部下だとは思ってる」

視線を逸らしながら広沢くんに対する評価をぼそりとつぶやくと、翳っていた彼の瞳の色がぱっと明るくなった。


「それは、ちょっとくらいは俺に好感持ってくれてるってことですか?」

広沢くんが私を見つめながらほんの少し目を細める。


「さぁ。その辺はあなたの判断に任せるわ」

「それは、いい方に判断していいってことですよね?」

「任せるって言ってるじゃない」

「碓氷さん、本当にぜんっぜん可愛げないですね」

素っ気なく言葉を返すと、広沢くんが不貞腐れた声でつぶやいた。