私が挑戦的に見上げると、広沢くんが蠱惑的に微笑んだ。

「できますよ。俺、碓氷さんのこと本気なんで」

そう言うと、広沢くん少し首を横に傾けながら焦らすようにゆっくりと私に顔を近づけてきた。


「ちょっ……!」

冗談にしてはタチが悪すぎる。

近づく広沢くんから、ふわっと爽やかな香りが漂ってきて、私は慌てて自分の唇の前に手のひらで壁を作った。

キス云々よりも、こんなふうに強引に押してこられることが久しぶり……というか、ほぼ初めてに近い経験で焦る。

いつのまにか、暗がりでも広沢くんに気付かれてしまうんじゃないかと思うくらい頬が火照っていた。


「連絡先くらいでこんなことするのはおかしいでしょ?連絡先は、私が業務上で広沢くんに教える必要があると思ったときに教えます」

「そんなに拒否るほど、俺のこと嫌ですか?」

ふてくされたようにつぶやきながら、広沢くんが私の肩に乗せていた手を離す。

唇にあてた手を戻さずにいると、広沢くんが私の顔を覗き込むようにじっと見てきた。