「わかりました」
広沢くんがふてくされた声でボヤいて私に差し出していたスマホを下ろす。
ようやく諦めてくれた。
そう思って油断したとき、広沢くんが私の両肩をつかんだ。
予想外の彼の動きに、驚いて目を瞠る。
広沢くんを見上げてゆっくりとひとつ瞬きをすると、彼が私に向かってさらに驚く言葉を口にした。
「だったら、やり方変えます。教えてくれないならキスしますから」
「何言ってるの?そんな脅しには……」
「セクハラで訴えます?でも、仮に碓氷さんが俺にセクハラされたって言ったとして、誰か信じますかね?」
意地悪く笑う広沢くんの態度に若干のムッとした。
広沢くんの物言いには腹が立つけど、社内での立ち位置において多くの人に好意的な感情を寄せられているのはたぶん、私よりも彼だ。
「そうね。あなたの言う通り、その場合は私のほうが分が悪いかもね。もしかしたら、私のほうがあなたに何かしたんじゃないかって逆に疑われるかも。だけどそっちだって、8つも年上の会社の上司に本気でそんなことできないでしょう?」



