その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



動揺は、してる。

悟られないように気を付けているだけで。


心の中でつぶやいて、広沢くんに向けては余裕げに唇に笑みをたたえてみせる。


「ありがとう。広沢くんの言葉に動揺する女の子はきっと他にたくさんいるでしょ。あなたの労力はもっとそっちに使うべきだと思う」

私がそう言うと、広沢くんが哀しげに目を伏せた。


「ほんと、ムカつきますよね。碓氷さんって」

私から視線を外して、広沢くんが低い声でボヤく。

その言葉に、私はとてもほっとした。

おかしな話だけれど、普段言われ慣れていない好意的な言葉よりも、いろいろな人に陰で散々囁かれている否定の言葉のほうが受け止めやすい。

これからも同じ職場で一緒に働いていく以上、私は広沢くんからムカつかれているくらいでちょうどいいのだ。


「上司なんて、ちょっとムカつくほうが見返してやりたいって気持ちが強くなるでしょ」

冗談交じりにそう返すと、広沢くんがそらしていた視線を私へと戻した。