「碓氷さん」
軽く会釈をして自宅のマンションに向かって歩き出そうとすると、広沢くんに呼び止められた。
「何?」
「コンビニで買ったこれ。一緒に食べようとか、誘ってくれたりしないんですか?」
振り向いた私に、広沢くんが手に持ったコンビニの買い物袋をちょっと持ち上げてみせる。
街灯に照らされている広沢くんの表情が、ひどく切なげに見えてドキリとした。
「こんな時間に無理に誘ったりしたら、セクハラとかパワハラになっちゃうでしょ。うちに帰ってゆっくり食べて」
ほんの少し胸の奥がざわめくのを感じながらも、広沢くんには悟られないように冗談を交えて笑ってみせる。
そんな私を、広沢くんが恨めしげにじっと見てきた。
「ほんっと、全然動揺してくれませんね。碓氷さん、俺のことなんてまるで眼中にないって感じだし」
コンビニ袋を持った手をぶらんと力なく落として、広沢くんが前髪をクシャっとかきまわしながらため息を吐く。



