その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―





「わざわざありがとう。遠回りをさせてしまって悪かったわね」

自宅の最寄り駅で電車を降りるときに、「ここで大丈夫だから」と強く断った。

それでも私の話を聞きいれずにマンションまで送ってくれた広沢くんに礼を言う。


「わざわざじゃないですよ。俺がそうしたいと思ったからここにいるんで」

何気なく口にしたお礼の言葉に、広沢くんが反論してきた。


「そう……」

彼の言葉にどう切り返すのが正解なのかはわからない。

けれど、広沢くんの上司という自分の立場を見失って、彼のペースに巻き込まれてしまっているのは明らかだ。

これでは普段の私らしくない。

体勢をしっかりと立て直さなければ。

私は気を引き締めると、背筋をすっと伸ばした。


「今日はいろいろと気遣ってくれてありがとう。歓迎会の幹事もお疲れ様。帰ってゆっくり休んでね。それじゃ」

部下を労う上司の顔で、ほんの少し微笑む。