その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―






広沢くんたちが予約してくれていたのは、会社から徒歩10分圏内にある居酒屋だった。

奥に広めの掘りごたつの個室があって、そこを貸し切ってもらったらしい。

居酒屋のスタッフに案内されて広沢くんとともに奥の個室まで歩く。

もうほとんどの社員が集まって来ているのか、半分閉じられた個室の中からは賑やかな話し声が聞こえてきていた。


「こちらです」

スタッフに案内されて、先に広沢くんが個室の中に入っていく。


「お疲れ様です」

「おー、広沢。おつかれ!」

お互いに労いの言葉をかけあう同僚たちの声。

それを聞きながら、広沢くんの後ろについてそっと個室に足を踏み入れると、明らかにわかるくらいに室内が一瞬しーんと静まり返った。

あー。やっぱり、私は来るべきじゃなかったな。


「お疲れ様」

ほんの少しだけ口元に笑みを作って、全体に向かってそう言うと、極力個室の端を目指して進む。