その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




私はいつもどおりに仕事をしたいた自信があるし、周りに広沢くんとの関係がバレるようなヘマはしたつもりはない。

不満げにさらに眉を寄せると、広沢くんが反論を阻止するように私の唇に人差し指をそっとのせてきた。


「今日一日れーこさんが俺に熱い視線を向けてくるから、早く捕まえてキスしたくて、どうしようもなかったんですよね」

「ふざけないで。そんなの、向けてないから」

少し前までなら、年下の部下のこんな戯言なんて簡単に流してしまえたはずなのに。

ややムキになって否定してしまう私は、いつの間にか彼にだけは敵わなくなってしまっているらしい。

そのことに既に気付いている広沢くんは、唇にあてた指で私の頬を撫ぜると、その手を耳の横からそっと髪の毛に差し入れてふっと笑った。


「泣いてるのも、笑ってるのも、怒ってるのも全部、俺以外には見せないでください。じゃないと、他のやつがれーこさんの魅力に気付いちゃうから」

低い声で魅惑的にささやきながら、広沢くんが髪に差し入れた手を私の頭の後ろへとずらす。

頭の後ろに回された手のひらにぐっと引き寄せられたかと思うと、広沢くんが私の耳に唇を這わせてささやいた。


「それで、俺だけに感じてください」

ゾクリと身体を震わせた瞬間、広沢くんが私の耳から唇を離す。

そうして至近距離で、ひどく綺麗に微笑んだ。



― Fin ―