その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―



肩にのった重みに動けずにいると、広沢くんが私の耳元でささやいた。


「碓氷さん、いつ止めてくれるんですか?」

「え……?」

ほとんど放心状態の私がつぶやいた一言に、広沢くんがため息をこぼすように笑う。


「え、じゃないですよ。これ以上はほんとに、会議室にいるってこと忘れて理性飛びそうです」


その言葉にハッとして、私は慌てて広沢くんを押し退けた。

そうだ。ここは職場の会議室。 

そのことを意識すると、頭が少し冷静になる。

突然引き剥がされた広沢くんは、ほんの一瞬驚いたように目を見開いて、それから口元をゆるりと引き上げた。


「今さらもう遅いですよ?」

取り繕おうと表情を硬く私の頬に、広沢くんが手を伸ばす。


「俺のこと好きでしょ?確氷さん」

頬に触れる手のひらを意識しながらも、今度はさっきよりは少しだけ冷静さを保っていられた。


「プライベートで何があっても、職場や人前ではそれを表に出さないように。ずっとそうやってきたの」

私の言葉に、広沢くんの顔から笑顔が消える。