その瞳に涙 ― 冷たい上司と年下の部下 ―




「ふざけてるの?」

「全然。俺はいつも本気です」

「離して。さっきから意味がわからない」

「碓氷さん、知ってますか?北原さんと副社長のお嬢さんって本社で働いてる俺の同期たちの間でも噂になるくらい、うまくいってないらしいですよ」

私の抵抗など無視で、広沢くんが耳元にささやきかけてくる。


「だから何なの?」

「役職者会議が終わっても碓氷さんだけなかなか戻ってこないから、気になって来てみたら案の定。北原さんに口説かれてるし」

「口説かれてかなんかないけど」

「そう思ってるのは碓氷さんだけですよ。どう見たって、北原さんは碓氷さんに未練ある雰囲気だったじゃないですか」

未練……、なのだろうか。それとも、気の進まない結婚を断りたいがための打算……?

北原さんの顔を思い出して黙り込んでいると、広沢くんが私を抱く腕をぎゅっと締め付けてきた。


「碓氷さん……」

広沢くんが、不安げな声で後ろから私に呼びかけてくる。